2009-03-30から1日間の記事一覧

一、pp.263-281

一 昭和十七年の夏の終り頃には、私は麻布二之橋のちかくにあるS子爵邸のS文庫に、書物をみせてもらふために通つてゐた。夕刻ちかくになると書物を棚にもどして、子爵邸前のだらだら坂をおりてくるが、どうかしたときは二之橋の欄干につかまつて溝《どぶ》…